東尋坊


人を倒すことなど簡単にできることではない。 稽古を終えるといつもそう思う。


スパーリングをやれば、すぐに息が切れて足や腕が鉛のようになってしまう自分に


出くわしてしまう。 いくら走っても、いくら稽古をしても、そう簡単に上達はしない。


でも身体は正直なもので、そうやって、地味な努力を受け容れてくれている。


ただ一つ一つの細胞にその変化を伝えるのに時間が少々かかるだけなのだ。


北風が窓を鳴らす明け方、疲れた身体を休めながら布団の中で耳を澄ませる。


風の向こうに新聞屋さんのバイクの音を聞いた。


ウトウトしながら長い間思い出す事のなかった遠い昔のことを思い出した。


これまでに交わった人達の温もりが蘇って、自分は一人ではなかったと気付いた。


北風の凍てつく寒さの中で心にほのかな灯が点された。


身体の自由が利くのであれば、その自由を思う存分使い切るがいい。


身体の自由が利かないのであれば、心の自由を思う存分使い切るがいい。


今、出来る事を思う存分試してみる。  そんな生き方をしてみよう。


そんなことを思いながら静かな朝を迎えた。


駅に向かう道で行き交う人々。


勤勉で真面目な人ほど人に迷惑を掛けたくはないと思っているのかな。


勤勉で真面目な人ほど「助けてください」とは声に出せないのではないだろうか。


でも手を貸したがっている人や、役に立ちたがっている人は少なくないかもしれない。


「あなたでも役に立ちますよ」と誰かが囁いた気がした。


今をギリギリのところで生きている人がいる。


張り詰めた心の人がいる。


そんな人に「今」を贈りたい。


きっとあなたを思う人が居て、「今、採ってきたよ」と果実を分けてくれる人がいる。


凍てつく寒さはまだ続いている。


背中は丸くなる。


そして歩きながら思った。


人はきっと機会があれば役に立ちたがっているのではなかろうかと。


そう思うと何だか今日も満更じゃなさそうな気になってきた。


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